8/14/2023 「ヘモグロビンA1c検査とグリコアルブミン検査の保健診療」を末尾に追記
数理糖尿病学という分野を知った。これは、数学的な手法で糖尿病を研究する新たな研究分野とのこと。
月刊 糖尿病ライフ「さかえ」の2月号から7月号に「数理糖尿病学を知っていますか?」(明舞中央病院の田原保宏先生)で、数理糖尿病学によるヘモグロビンA1cの読み方が連載された。
備忘録を兼ねて田原先生の解説から要点を抜粋し、後段で私の血液検査HbA1cの信頼度(個人差)を調べた内容をまとめる。
【抜粋はじめ】
ヘモグロビンA1cはいつの血糖値を表すのか
ヘモグロビンA1cと過去の血糖値の関係は下図のようになる。ヘモグロビンA1cの50%が検査日直前1ヵ月の血糖値で決定され、25%がその前1ヵ月の血糖値、残りの25%がさらにその前2ヵ月の血糖値で決定される。言い換えれば、最近の血糖値ほどヘモグロビンA1cへの寄与が大きく、過去の血糖値ほどヘモグロビンA1cへの寄与が小さくなる。
ヘモグロビンA1cと血糖値の関係
数理糖尿病学では、ヘモグロビンA1cと平均血糖値の関係を下図の式としている。
平均血糖値が30mg/dL上昇するとヘモグロビンA1cが1%上昇すること、平均血糖値=0に対応するヘモグロビンA1cは2%である、と確定している("2%"は血液中のヘモグロビンを完全に分離できない昔の技術で標準化された時代との整合性を保つために決まった定数)。
ヘモグロビンA1cの個人差の原因
多数の患者のデータを見ていると、ヘモグロビンA1cの測定値が標準値に一致せず、大きくずれる患者がいることが分かってきた。標準値からずれる原因は、下表のとおり。
これらの中で最もよく知られているのは、合併疾患によるものです。合併症によって赤血球寿命が短縮するとヘモグロビンA1cは低値になり、赤血球寿命が延長すると高値になる。
ところが、多くの患者では、合併疾患がない場合でもヘモグロビンA1cが大きくずれることがある。この原因は、赤血球寿命は平均120日だが、患者によって100~140日の幅がある。赤血球寿命が120日より短いとヘモグロビンA1cは低値になり、120日より長いと高値になる。
平均血糖値が急に変化した場合も、ヘモグロビンA1cが標準値からずれることがあるが、この現象は一過性で3~4ヵ月で消失する。
測定誤差も多少のずれを発生するが、このずれは±0.2%以下。
したがって、ヘモグロビンA1cが標準値からずれる主な原因は、合併疾患と体質的な個人差の二つ。
ヘモグロビンA1cの個人差の分布
多数の患者のヘモグロビンA1cを調べた結果、標準値からのずれは下図のように分布している。
ヘモグロビンA1cが標準値と一致する患者はごく一部で、大多数の患者は何らかのずれを有している。
このようなヘモグロビンA1cの個人差の大きさと臨床的有用性を考えると、±0.5%以内を許容範囲と考えるべきである。ずれが許容範囲に収まる患者は68.2%で、残りの31.8%は許容範囲を超えている。特に問題なのは、4.6%の患者はヘモグロビンA1cが±1%の以上を示すこと。
患者の4.6%という割合は小さいように見えるが、数十人の患者を診察すると±1%以上ずれる患者が2~3人いることになる。
ヘモグロビンA1cの個人差が±1%もあるというのは、血液検査でヘモグロビンA1cが7%であっても、実際の血糖値は6%に相当する、あるいは8%に相当する患者がいることになる。
個人差の有無を判定する方法
患者一人一人のヘモグロビンA1c測定値が標準値からどのようにずれているかは、下表の方法で定量化できる。
基本的に1または2の方法で平均血糖値を算出し、その値から標準のヘモグロビンA1cを計算する。この標準値を実測のヘモグロビンA1cと比較すれば、測定値とのずれを定量化できる。
3の方法(グリコアルブミンの測定)も有用。簡単に検査できるグリコアルブミンの併用を推奨している。
グリコアルブミンの測定
ヘモグロビンA1cは、血液中のヘモグロビンというタンパク質にブドウ糖(グルコース)が何%結合しているかを示している。
グリコアルブミンは、血液中のアルブミンというタンパク質にブドウ糖が何%結合しているかを示すもの。
この両者の測定値の違いは、ヘモグロビンA1cは赤血球の寿命に依存するが、グリコアルブミンはヘモグロビンA1cよりも短期間の血糖値を反映することで、両者はとてもよく似た検査。
グリコアルブミンは、検査日直前の過去17日間の血糖値でその50%が決まり、その前の17日間の血糖値で25%が決まり、さらにその前の1ヵ月間の血糖値で残りの25%が決まる。
グリコアルブミンからヘモグロビンA1cへは、下図の式で変換できる。
患者の年齢や病態で、ヘモグロビンA1cの個人差を定量化する必要性は異なるが、ヘモグロビンA1cとグリコアルブミンの検査を併用すれば、両指標の乖離の有無により問題のある患者を抽出することができる。
下表は、両指標が乖離する場合の基本的な対処法。
【抜粋おわり】
自分のHbA1c測定値の検証
前回の定期通院で、主治医にグリコアルブミンの検査を打診したが、同じ月にヘモグロビンA1cとグリコアルブミンの検査を行うと保険点数で認められない、また私の状態ならそこまでの検査は必要ない、と言われ断念。
2020年9月からのポンプ情報をNightscoutに保存しているので、標準値を計算し測定値と比較した。
Nightscoutのレポートで
を出し、加重平均グルコース値を計算
G1×0.5+G2×0.25+G3×0.25 = 加重平均血糖値
この平均値から、標準のヘモグロビンA1c
加重平均血糖値 ÷ 30 + 2 = 標準のHbA1c
を算出した。
8/3に行った血液検査では、HbA1cの測定値は6.2。これに対応する標準値も6.2で乖離なし。
あまりにも理想的な結果で目を疑った。
偶々という可能性もあるので、直近の過去5回の血液検査について、標準値を計算し比べてみた。
0.1~0.2%の乖離で、±0.5%以内であり許容範囲であることを確認。
CGMセンサの精度と信頼性の問題もあるので、640Gのエンライトセンサ使用時のデータを使い、測定値と標準値を比較した。
乖離は0.3%で、770G使用時よりも乖離幅が大きくなっている。エンライトセンサは、770Gのガーディアンセンサ3に比べ精度が低いので、この結果に納得。
私の測定値には個人差がほとんでなく(許容範囲内である)、血液検査で示されるHbA1cが信頼できることがわかり、安心した。
Nightscoutを利用しているので過去のCGMデータを容易に得られたが、Nightscoutを使っていない場合は、4ヵ月間のかなり長期間を遡れない。その場合は、将来の検査日を想定して、1ヵ月ごとの平均グルコース値をメモし、4ヵ月分のデータを集めて、G1×0.5+G2×0.25+((G3+G4)÷2)×0.25として計算すれば、簡易的に確認できると思う。
ポンプ利用者なら、履歴→サマリーで30日間の平均値を把握できる。リブレやG6でも30日ごとの平均値がわかれば、同様に対応できるが、センサの精度(実測との乖離)がどの程度かに注意する必要があるでしょう。
ヘモグロビンA1c検査とグリコアルブミン検査の保険診療(8/14/'23 追記)
2020年2月号の「さかえ」に特集『グリコアルブミン(GA)を活用しよう』の記事が掲載されていることを思い出した。この特集に、ヘモグロビンA1c検査とグリコアルブミン検査を同一月中に併用できる条件が記載されていた。
ネット検索で同じ内容を記載するHPが見つかったので、参考までに下記に引用。
【引用】
糖尿病の患者様によく行われる血液学的検査のヘモグロビンA1c(HbA1c)と生化学的検査(I)のグリコアルブミンまたは1,5アンヒドロ‐D‐グルシトール(1,5AG)の3項目は、同一月中に併せて2回以上行っても、主たるもの(どれか1項目)を月1回に限り算定されます。ですが、下記4通りのいずれかに当てはまる患者の場合は、これら3項目のうち、同一月に2項目まで算定することができます。ただし、同じ項目を2回算定することはできません。
- 妊娠中の患者
- 1型糖尿病の患者
- 経口血糖降下薬の投与を開始してから6ヶ月以内の患者
- インスリン治療(自己注射)を開始してから6ヶ月以内の患者
ここで気をつけるポイントが、電子カルテでは2項目以上を同一月に入力すると併用算定不可のエラーメッセージがでると思います。ですが、この4つに当てはまる患者の場合は、もう1項目算定ができますのでスルーをしても構わないと思います。