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780Gスマートガード:食事ボーラスで異常な調整が行われる現象

780Gの使い始めから悩まされ続けてきた問題についてまとめる。

 

スマートガードのボーラスウィザードで糖質量をインプットすると、糖質比から計算されるインスリン単位数が『調整』により大きく差し引かれる。この『調整』は、「(目標-グルコース値)÷インスリン効果値」で行われると考えていたが、それとはまったく異なる現象。

 

一番戸惑ったのは、ボーラスされるべきインスリンの全量がマイナス調整され、ボーラス量がゼロになったこと。「アルゴリズムのバグ?」と考え、メドトロニックに問い合わせたが、スペックとの回答だった。

 

メドトロニックの回答

この現象についてのメドトロニックの回答。

スマートガードボーラスは、過去に注入したオート基礎や自動補正のインスリン量、現在のセンサグルコース値(または血糖値)、センサグルコース値の傾き等を考慮した上で、調整のインスリン量を決定します。

過去にインスリン量が多く入っている場合や食後低血糖が予測された場合は、調整によりボーラス量が減量されます。
場合によっては糖質量を増量した場合、調整数でボーラスインスリン量をゼロとして計算する場合もございます。

これは食事ボーラス投与後に発生する低血糖のリスクを避けるため、ボーラスインスリン量を減量し(場合によってはボーラス量をゼロにする)、その後に発生する食事による血糖上昇をオート基礎と自動補正でカバー(対処)する仕組みとなっております。

この説明では、どのような場合にこの現象が起きるのか、どうなると『調整』によりボーラス量がゼロになるのか、具体的な条件(状況)が分からない。

もっと大きな問題は、この現象についての説明がマニュアルに一切記載されていないので、どう対応すべきかが分からない。そのため、初めてこの現象に直面したユーザは頭を抱えて困惑すると思う。きちんとしたガイドラインが必要と思う。

 

Safe Meal Bolus と Safety module

"780G Safety module"でネット検索して、Medtronic Canada作成の”Let's talk about Safe Meal Bolus”の資料 を見つけた。この資料には、食事のボーラス時の『調整』について説明が記載されている。この現象を理解する上で、参考になる。

https://diabeteseducatorscalgary.ca/uploads/PDF/MiniMed_780G_Safe_Meal_Bolus_-_Patient_Training_Resource.pdf

 

一部を引用し、日本語訳をつける。

 

What is Safe Meal Bolus?

Safe Meal Bolus is a safety feature that will reduce the amount of meal bolus insulin if the system predicts a hypoglycemia (hypo) would occur if the full bolus was given.
Safe Meal Bolus is important because you may have more insulin in your system before meals as a result of automatic (auto) correction boluses.

Safe Meal Bolusは、インスリン全量(糖質比と糖質量で計算されるインスリン単位数)をボーラスすると低血糖を起こす可能性があるとポンプが予測した場合、ボーラス量を減らす安全機能です。

食前の自動補正ボーラスにより体内に多くのインスリンが残っているかもしれないので、Safe Meal Bolusは重要です。

What does Safe Meal Bolus take into consideration?

Safe Meal Bolus considers many things in the bolus calculation before suggesting an insulin dose.

These include:

  • current blood glucose or sensor glucose
  • current glucose trend
  • insulin on board from recent meal insulin boluses
  • manual corrections or auto correction boluses
  • carbohydrates (carbs) entered into the bolus wizard
  • estimated carbs remaining from previous meals

Safe Meal Bolusは、推奨するインスリン投与量を表示する前に、以下の情報を考慮してボーラス計算を行う。

  • 現在の血糖値またはセンサグルコース
  • グルコースの変動傾向(下降・上昇)
  • 直近の食事に投与したインスリンの残存量
  • 手動補正または自動補正されたインスリン
  • ボーラスウィザードでインプットされた糖質量
  • 前回の食事でインプットされた糖質の残存量(推定値)

Safety module

Once it has this data, it runs it through a safety module to predict what the lowest glucose value could be four hours after a meal. If the glucose level in that 4-hour period is predicted to be low, the algorithm calculates the largest bolus amount that would be safe to give without going low.

 

これらのデータを得て、ポンプはSafety moduleを実行し、食事から4時間の最も低い血糖値を予測します。この4時間のグルコース レベルが低いと予測される場合、アルゴリズムは、低血糖を起こさずに安全にボーラスできる最大のインスリン量を計算します。

 

Safety Moduleの動き(実例1)

Safety moduleの動きを知ることが必要と思うので、それが分かる動画を示す。

この動画()は、インプットした糖質量に応じて、Safety moduleにより『調整』され、ボーラスできるインスリン量が変動する様子を撮ったもの。

www.youtube.com

 

動画撮影時のセンサグルコース値は96mg/dL、ポンプ内のインスリン効果値がインスリン1単位に対して60mg/dLと想定すると、調整は(100-96)÷60≒0.1単位、この調整量が基本となる。

カウントした糖質量が80gと糖質比7.2g/uから、ボーラス量は11.1単位(80÷7.2=11.1)を想定した。糖質量が50gくらいまでは0.05~0.10単位の調整となり、想定どおりの動きになっている。ところが、糖質50gを超えるあたりから糖質量が増えるにつれて調整される量も増加し続け、糖質が80gで1.80単位の調整になり、ボーラスは9.3単位と表示された。

これがSafety moduleによる調整。

 

残存インスリンの影響(実例2)

(実例1の続き)カウントした糖質80gに必要なインスリンは11.1単位だったが、Safety moduleによる調整が大きかったので、とりあえず糖質50g分のインスリンをボーラスし、残りは食後にボーラスすると決め、8:31に糖質50gをインプットして6.85単位をボーラス(50÷7.2=6.95から-0.1単位の調整)した(ボーラスの分割)。

朝食を食べ、約1時間後の9:24、残りの糖質30gに必要なインスリンをボーラスしようとした。グルコース値が140mg/dLに上がっていたので大丈夫と考えたが、その見通しは甘かった。

8:31にボーラスした分の残存インスリンがあるため、Safety moduleによる調整が-1.25単位となった。この調整量は、残存インスリンのみが原因ではなく、約50分前にSafety moduleに引っかかったことも理由かもしれない(ポンプ内でその旨のフラッグが付くと推測)。

調整量の割合:-1.25/4.15=-30%

 

糖質比の影響(実例3)

(実例1と実例2の続き)動画撮影のとき、続けて糖質比がどのようにSafety moduleの調整に影響するかをチェックした。

9:24でグルコース値は140mg/dLに上がり、上昇が続いている(朝食の影響)。

 

糖質比:8.0g/u(7.2g/uから変更)

調整量の割合:-0.7/3.75=-20%

 

糖質比:8.5g/u

調整量の割合:-0.35/3.50=-10%

 

糖質比:9.0g/u

調整量の割合:0.00/3.30=0%

 

糖質比:9.5g/u

調整量の割合:0.00/3.15=0%

 

糖質比:9.5g/uで、糖質80gをインプット

調整量の割合:-1.00/8.40=-12%

 

糖質比が緩やかになる(1単位に対する糖質量が増える)ほど、Safety moduleで調整される量が減少するように見える。

Kathy Leppert氏は、FacebookのPrivate Group "Medtronic 670G, 770G, 780G Support Group"で、Safety moduleによる調整を分析し、TDDと糖質比によって変動すると述べている。

 

グルコース値が低い(70mg/dL未満)場合(実例4)

私の場合、食事用のボーラスの大半(70~80%の割合)で、Safety moduleによる調整が行われる。この1ヵ月間の観察を通じて、Safety moduleの動き方を把握してきたが、恐らく、私の理解が全てのケースになるとは思わない。しかし、インスリン全量がマイナス調整されるケースは、センサグルコース値が低く、下降している場合に起きていると考えている。

 

夕食の糖質を90gとカウントして、ボーラスウィザードにインプットしたが、全量が調整され、ボーラスはゼロとなった(3/8 金)。

 

この直前の18:55、グルコース値が77mg/dLだったのでブドウ糖10gを補食した。この補食から15分経っているので、血糖値は上昇していると考え、食事用のインスリンをボーラスしようとした。血糖値が上昇しても、間質液に反映されるまで10~15分の遅れがあるので、センサグルコース値ではそれが未反映となった。

 

1分後の19:11、糖質40gのインプットでも全量が調整され、ボーラスはゼロ

 

さらに3分後の19:14、糖質40gに対して調整が-0.65に変化し、ボーラスは4.05

ポンプのグルコース値は68mg/dLのままで、19:11から変化していないが、センサ読み取り値(ISIG値)が変化した(ISIG値は19.56→19.76と上昇に転じた)ため(血液内のグルコース濃度が間質液に反映)、異なる『調整』になった。

 

4分後の19:18、グルコース値72mg/dL(ISIG値は20.56)に上昇、糖質40gに対して調整が-0.55に減り、ボーラスは4.15単位

 

グルコース値なし」の場合(実例5)

Safety moduleはセンサグルコース値に応じて『調整』を行うようなので、ボーラスウィザード画面に「グルコース値なし」が表示されているとき(ポンプがセンサ読み取り値を受診できないとき)、調整が無くなるのでは、と思い、チェックした。

 

結果は、グルコース値がある場合と同様に、大きな『調整』が起きた。

 

新しいセンサに交換し、「センサ準備中」に食事用のボーラスをした(3/8 金)。

トランスミッタを外す直前のグルコース値は126mg/dLだったので、低血糖の状態ではない。それでも、糖質82gのインプットに対して、調整が-3.70単位となった。

 

調整を受け入れた場合(実例6)

ポンプが示す『調整』をそのまま受け入れると高血糖になるので、私は、基本的に、それを無視して、必要なインスリンをボーラスするようにしているが、そのまま受け入れたらどうなるか、試してみた。

 

3/29(金)の昼食の糖質52g、必要なインスリンは52÷9.5=5.45単位である。このとき、0.65単位の調整が表示され、4.80単位をボーラスした。グルコース値が156mg/dLだったが、残存インスリンが0.95単位あったため、この調整が行われたようだ。

 

予想どおり高血糖になったが、興味深いことが起きた。

自動補正ボーラスが5分ごとに連続して5回、合計1.80単位の注入が行われ、高血糖から回復した。

  • 13:40  0.40 単位 (209mg/dL)
  • 13:45  0.45 単位 (221mg/dL)
  • 13:50  0.45 単位 (233mg/dL)
  • 13:55  0.30 単位 (236mg/dL)
  • 14:00  0.20 単位 (241mg/dL)

注:括弧内は、そのときのグルコース

Safety moduleによる調整が行われた場合、ポンプ内にフラッグがたち、グルコース値が高くなるとタイムリーに自動補正ボーラスが行われるように見える。血糖値が高くなるリスクはあるが、きちんとリカバリーされる。

 

私の対応方法

私は、次の方法で対応している。

1.糖質比を見直した

  • 昨年7月に朝食後の200mg/dLを超える高血糖への対応のため、朝食の糖質比を7.2g/uに変更した(それ以前は8.0g/u)
  • この設定はインスリンを多めにボーラスしている。そのため、780Gになって朝食後の補食が多くなった。また、Safety moduleの影響を避けるためにも変更が必要と判断した
  • 元の8.0g/uに戻した(3/7から)

 

2.食事の30分くらい前にグルコースの変動を確認する

  • 30分くらい前のグルコース値が下降していると、食前のボーラスでSafety moduleにひっかかることが多い(ボーラスがゼロになる原因)
  • ブドウ糖を補食し、食事のボーラス時には上昇傾向になるようにする

 

3.『調整』によりボーラスがゼロになる場合

12:26 ボーラスウィザードでボーラスがゼロとなる(3/27 水)→ ブドウ糖5gを補食

 

12:49 グルコース値130mg/dLに上昇 → 全量のインスリンをボーラス

 

4.『調整』が少ない場合、次の2とおりで対応する

① 必要なインスリン量をボーラスできる糖質量に増量する

18:48 カウントした糖質33gをインプットすると、-1.05単位の調整となる(3/24 日)

 

3.85単位のインスリンをボーラスするために、糖質量を41gに増やしてボーラス

 

780Gを使い始めて間もない3/6に、『調整』でボーラス量が大きく減らされるのを回避するため、糖質64gを111gとしてインプットしたが、このような2倍ちかい増量を行うべきではない、と考えている。

 

② 2回に分けてボーラスする

①は、実際と異なる糖質をインプットするので、増量の割合が大きく実態とかけ離れていると、アルゴリムに影響を与える恐れがある(冒頭で引用したMedtronic Canadaの資料に、アルゴリズムが糖質量を考慮する旨の記載あり)。

ボーラスを行うと「○○g 糖質が保存されました」のメッセージが表示され、インプットした糖質量が記録されるのは、これを裏付けているように感じる(770Gでは、このメッセージがない)。

 

これを避けるために、調整が行われない糖質量(食事の糖質を2分割する等)でボーラス後、続けて不足分をボーラスする。

あるいは、高脂質の食事への対応を兼ねて、糖質の60~70%に相当するインスリンをボーラスし、食後30~45分後に残りのインスリンをボーラスすることもある。

なお、3回に分割してボーラスする場合もある。